21. 選択(淘汰)
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もし、遺伝子型の間に生存力や繁殖力に違いがあれば、選択が起こる 選択の動力学
淘汰の強度が変わるにつれて淘汰が集団を変える効力も変わってくる
淘汰が強ければ変化も急速に起こる
弱い淘汰のもとでも有利な遺伝子は時と共に集団中に広がることができるが、時間は非常に長くかかるだろう
ある対立遺伝子がその生存力および繁殖力に関し中立に近くなるにつれ、淘汰の効果は遺伝子頻度の変化を決定する他の過程、例えば偶然的遺伝子頻度浮動(遺伝的浮動)に比べ次第に重要でなくなる 今、接合体に2種類あり、それぞれが100個体からなるとする
第1の型は次代に子どもを95個体残し、第2の型は100個体残す
第1の型の相対適応度は$ 0.95であるという
各々の遺伝子型が遺伝子プールに寄与し、続いて次代をつくるためにそのプールから対立遺伝子の対が無作為に取り出されるものと仮定する
さらに、世代が不連続で、集合は接合体の時期に数えられるものと仮定する
慣例に従い、Aを有利な遺伝子(頻度$ p)、A'をもう一つの対立遺伝子(頻度$ q)とする
table: 表21.1 選択の方程式を導くための理論的モデル
遺伝子型 AA AA' A'A' 総計または平均
相対適応度 1 1-hs 1-s
頻度 p² 2pq q² 1
繁殖のための遺伝子プールへの相対的寄与 p² 2pq(1-hs) q²(1-s) w̅
$ s=0.05であれば、A'A'の相対適応度は$ 0.95
$ s=1のときは遺伝子型A'A'は致死または不妊
$ h=0のときはAAとAA'は適応度が同じで、それゆえ、Aは優性であり、A'は劣性
$ h=1のときAは劣性
$ h=1/2のときは優劣関係がない
明らかに$ hは優性の方向と度合いにより、$ 0と$ 1の間のどのような値もとり得る
1世代の後の遺伝子頻度にはダッシュをつけて表せば次代におけるA遺伝子の割合は次のようになる
$ p'=\frac{p^2+pq(1-hs)}{\overline w}=\frac{p(1-qhs)}{\overline w}\qquad(21.1)
この式を使って、遺伝子頻度の期待値を世代を追って計算できる
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3つの遺伝子型
+/+は正常、+/Sbは先切れ剛毛(Stubble)の表現型を表し、Sb/Sbは幼虫期のはじめに死ぬ 点線は$ s=1, h=0すなわち突然変異が劣性致死であるとした場合の期待値
実線は$ s=1, h=0.12としたときの期待値
点は集団箱で育てたショウジョウバエから標本を毎週取り出し、これから得られた資料
この場合、平均生殖年齢は2.5週間
実際の集団では卵、幼虫、さなぎ、成虫のすべてが集団飼育箱の中に共存している
世代は重複し、環境は比較的一定であるが、絶対に一定というわけではない
例えば、集団の大きさはかなり変動した
にもかかわらず、不連続な時間間隔で、遺伝子プールから任意に配偶子を取り出すという簡単な理論模型を用いた計算が観察地と非常によく一致している
遺伝子頻度の変化を表す曲線の一般的な形
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劣性遺伝子では頻度がごく低い時は変化がおそい
劣性遺伝子の大部分はヘテロ接合の状態であっ腐れ、有利な方が優性であろうと劣性であろうと劣性遺伝子は選択を受けない
優性遺伝子が有利な場合と劣性遺伝子が有利な場合とでは対象図形になっている
図を180度回転させれば形が同じになる
また、変化の全過程をみた時、優性の度合いが中間の場合の方が優性が完全な時より選択によってずっと急速に変化することも明らか
方程式21.1を何回も用い、有利な対立遺伝子頻度を世代をおって計算できる
遺伝子頻度の指定された変化を起こすために何世代かかるか
table: 表21.2 s=0.01のとき有利な対立遺伝子の頻度が一つの値から他の値に変化するのに要する世代数
遺伝子頻度の変化 優性個体が有利なとき(h=0) 劣性個体が有利なとき(h=1) 優劣関係がないとき(h=1/2)
0.001→0.01 232 90,231 462
0.01→0.10 250 9,240 480
0.10→0.25 132 710 220
0.25→0.50 177 310 220
0.50→0.75 310 177 220
0.75→0.90 710 132 220
0.90→0.99 9,240 250 480
0.99→0.999 90,231 232 462
例えば、有利な優性遺伝子が$ 0.01から$ 0.25に頻度が変化するのに$ 250+132=382世代かかる
この表が便利な理由は$ sの小さな値($ 0.1以下)の場合に対し、$ sと変化に要する時間との間に反比例の関係が存在する点
したがって、$ sが$ 0.01でなく$ 0.1のときは、変化に要する世代数は表のそれぞれの数を10で割ったものになる
例えば有利な遺伝子が$ s=0.1のとき、その頻度が$ 0.1から$ 0.5に変化するのに何世代要するかを知りたければ、その答えは$ 13.2+17.7すなわち31世代
表21.2の第3、第4行は上下逆に読めば同一になることに注意
有利な優性遺伝子の頻度が$ 0.90から$ 0.99に変化するのに9240世代かかるのであれば、選択の向きが逆になった場合それが$ 0.99から$ 0.90に変化するのにやはり9240世代かかる
これは有利な劣性遺伝子が$ 0.01から$ 0.10に変化する時間に対応する
大部分の進化的変化は非常に遅いもの
このような変化に対しては、例えば$ 0.001またはそれ以下といった非常に小さな$ sの値を仮定すればよい
しかしながら、急速な進化的変化が起こった例が少数あり、そのほとんどうsべては直接または間接に人の手が加わった結果生じたもの
19世紀のイギリスの産業革命→大気中の煙やすすの量が増加
樹幹の上にはえる白色の地衣のあるものは、煙に対して敏感 死ぬと暗黒色の幹があらわれる
ガのあるものの色が斑点のある薄い色から、ずっと黒い色へと急速に変化した この違いは主として一個の優性遺伝子によるもの
ほぼ35年の間にこの遺伝子の頻度はいくつかの地域で1%以下から90%に変化した
この変化がおこったガは1年当たり1世代しかないのでこの値は35世代の間に約$ 0.01から$ 0.9に変化したことを表す
表21.2からもし、$ sが$ 0.01であればこれだけの変化には$ 250+132+177+310+710=1579世代要するということがわかる
同一の結果が35世代に起こる選択の強さは$ s=(1579/35)(0.01)=0.45であることを意味する
この計算は大雑把であり、$ sの値はこの期間に変化したかもしれないが、それでも選択の強度が大きく、大雑把に言うと$ s=1/2であることが明らか
この強い選択の直接的な推定値は鳥が木の幹から色の違うガをついばむのをみていた観察者によって得られた
抵抗性はしばしば遺伝的に単純なもので、DDTの解毒酵素を生産する場合のように、たった一つの優性遺伝子によることもある 初期に観察を行った研究者は、はじめの数年は抵抗性を持つ昆虫の数が非常に少ないので突然変異体はしばしば検出できなかったが、その後突然変異の割合は急速に増え始めたという事実に驚かされた このような変化様式は最初の抵抗性昆虫の数がおそらく1%の何分の1といった低い割合であるとき、S字型選択曲線から予想されること
抵抗性が劣性遺伝子による場合には、最初の増加がはじまるのがもっと極端に遅くなる
特殊な場合:劣性個体に対する完全選択
$ s=1および$ h=0のときには、完全な数学的解が容易に得られる
これらの値を式21.1に代入し、$ p=1-qに注意すれば次の式が得られる
$ q'=q/(1+q) \qquad (21.2)
さらにもう1世代たつと
$ q''=q'/(1+q')=q/(1+2q)\qquad(21.3)
接合体の時期における遺伝子型の頻度はハーディ-ワインベルグの法則を用いて求められる
いま、このような子ウシの頻度が現在$ 0.01であるとすれば、それは任意交配のもとでは劣性遺伝子の頻度が$ 0.1であること意味する もし、この選択が10世代続くとしたら、式21.3を用い$ n=10, q=0.1とおくと、この遺伝子の頻度は$ *0.1)/(1+0.1n)すなわち$ 1/20に減少する
したがって10代の間に、赤色の子ウシの頻度は$ 1/400に減少する
選択と突然変異のつり合い
定方向の選択は遺伝子頻度を時には早く、しかし多くの場合はゆっくりと変化させる
非常に長い時間かかるかもしれないが、有利な遺伝子は振りな遺伝子を結局は置き換えてしまう
それでも、どんな種でもその自然集団を調べればわかるように、常に多数の有害遺伝子がある
新しい有害遺伝子が突然変異で生ずるが、それは選択で除去される
結局これら二つの過程が釣り合って、新しい突然変異の出現率と選択による消失率とが等しくなる
式21.1を突然変異を考慮して変更すると次のようになる
$ p'=\frac{p(1-qhs)}{\overline w}(1-\mu), \overline w=1-sq(q+2ph)\qquad (21.4)
$ 1-\muという項を加えたのは、前世代で突然変異を起こさなかったA遺伝子だけを繁殖にかかわる遺伝子プールのうちで問題にするため
突然変異と選択の過程が釣り合った時、遺伝子頻度には変化が起こらなくなる
これを表すには$ pを$ p'と等しいとおけばよい
今この並行頻度を$ \hat pで表し、A'の平衡頻度を$ \hat qとすれば、次の2次方程式が得られる
$ s(1-2h)\hat q^2+hs(1+\mu)\hat q-\mu=0 \qquad(21.5)
この式を解けば$ \mu, h, sの特定の値に対して$ \hat qの値を求めることができる
劣性突然変異の場合($ h=0)
上の式は次のように簡略化される
$ \begin{aligned}\hat q^2 &=\frac{\mu}{s} \\ \hat q &= \sqrt{\frac{\mu}{s}} \qquad (21.6)\end{aligned}
この結果は次のように考えれば合理的
平衡状態における劣性ホモ接合体の割合は突然変異率を突然変異ホモ接合体の選択における不利な程度を割ったもの
したがって、劣性致死遺伝子($ s=1)のホモ接合体の割合は、単に突然変異率に等しい
1個の劣性ホモ接合体が死ぬ度に、2個の突然変異遺伝子が除去される
二倍体生物の二つの正常遺伝子から生じた二つの突然変異遺伝子とつりあうから $ hが$ 0でないときには、2次方程式21.5を解かねばならない
$ \hat q =\frac{-hs(1+\mu)+\sqrt{h^2s^2(1+\mu)^2+4\mu s(1-2h}}{2s(1-2h)}\qquad (21.7)
この場合、$ hsが$ 0に近くない限り、次の式によってよい近似が与えられる
$ \hat q \simeq \frac{\mu}{hs}\qquad(21.8)
この式もまた理にかなっている
遺伝子の頻度は突然変異率とヘテロ接合体の淘汰に対する有害さとの比で与えられる
もし、ヘテロ接合体が、かなり淘汰に不利であれば、ホモ接合体は大変まれなので問題にしないでよい
この方法はまたヒトの突然変異率を計算することにも利用できる
デンマークにおける研究の一例によると、この出現率は94,075の出産中10
これらの患者はすべてヘテロ接合体なので遺伝子頻度は出現率の半分、すなわち、5/94,075
この遺伝子型の適応度を求めるには軟骨発育不全症の患者108人が27人の子どもを産み、これに対しその正常な兄弟姉妹457人は、582人の子どもを産んだという事実を用いればよい
患者の相対適応度$ (27/108)/(582/457)=0.20
したがって、$ hs=0.80と推定され、式21.8から$ \mu=0.80\times5/94075が得られ、これはほぼ$ 4/100000
この値は正常な両親から生まれた患者数を用いて推定された突然変異率とよく合う
またこれらの式を用いて、致死遺伝子の集団内行動を知ることができる
ショウジョウバエのは大型常染色体については致死突然変異率は染色体あたり、世代あたり$ 0.005
集団内ではほぼ4個に1個の割合で、染色体は劣性致死遺伝子をもつ
染色体あたりの遺伝子の総数は約2000だから、遺伝子あたりの突然変異率は$ \mu=0.005/2000=0.0000025となり、一方観察される集団内の劣性遺伝子の頻度は$ \hat q=0.25/2000=0.000125
もし、致死遺伝子が完全劣性であれば$ \hat qは突然変異率の平方根、すなわち$ 0.00158となるはずだが、これは観察値の10倍以上になってしまう
したがって、ヘテロ接合体に対して不利に働く選択があるに違いない
式21.8を用い、$ s=1であることに注意すれば$ h=\mu/\hat q=0.02という推定値が得られる
したがって、自然集団における平均的ないわゆる"劣性"致死突然変異遺伝子は完全に劣性でなく、それはヘテロ接合の状態でほぼ2%選択に不利だということになる
ショウジョウバエの自然突然変異遺伝子の研究から、$ hと$ sの間には負の相関があり、したがって$ hsは$ hまたは$ sの各々よりも一定な値をとりやすいことがわかった
もし$ hsが$ 0.01程度の大きさであれば、突然変異遺伝子はほとんどホモ接合にはなりえない
集団に対する有害遺伝子の影響はほとんどすべてヘテロ接合における効果によるもので、ホモ接合体の適応度はほとんど関係がない
ショウジョウバエにおけると同じように人類を含めた他の種でも生存力に少ししか影響を与えない突然変異遺伝子は大きな効果を及ぼすものよりずっと頻度が高い
しかし、上に述べた理由によれば、効果のひどくない突然変異遺伝子でも集団に対して同程度の効果を及ぼし得る
突然変異の最も大きな影響は、一つ一つは効果が小さい多数の突然変異遺伝子のヘテロ接合における累積的な効果によるもの
X連鎖遺伝子
X連鎖遺伝子座の解析は死亡率に差がある場合には、遺伝子の頻度が生育した雄個体と雌個体の間で同一でないという理由により複雑になる
強い選択を受けたX連鎖遺伝子座に対しては、ハーディ-ワインベルグの法則を仮定することはできない
この場合、次のような単純だが合理的な仮定をすれば、問題が扱いやすくなる
ホモ接合の劣性雌個体が非常にまれなので、計算の上では無視できるということ
table: 表21.3 X連鎖の劣性因子に対し不利に働く強い選択のモデル
女性 女性 男性 男性
遺伝子座 AA Aa A a
相対適応度 1 1 1 1-s
接合体頻度 1-H H 1-q q
ここでもし$ sが大きければ、$ qと$ Hは小さな値をとることになる
記号にダッシュをつけて次代の頻度を表すことにすると、次の二つの式が得られる
$ \begin{aligned}q'&=\frac{H}{2}+\left(1-\frac{H}{2}\right)'\mu_f\simeq\frac{H}{2}+\mu_f \\ H'&\simeq\frac{H}{2}+q(1-s)+\mu_m+\mu_f\end{aligned}
Aからaへの突然変率は男性では$ \mu_m、女性では$ \mu_fで表す
平衡状態では$ H=H'および$ q=q'が成り立つ
第1式から得られる$ H/2の値は$ q-\mu_fとなるから、それを第2の式に代入して次のような平衡状態における値が得られる
$ \begin{aligned}\hat q&=\frac{2\mu_f+\mu_m}{s} \\ \hat H&=2q(1-s)+2\mu_f+2\mu_m\qquad(21.9)\end{aligned}
これらの式では両性で突然変異率が違う可能性を考慮してあることに注意
常染色体遺伝子座については、両性の間で突然変異率が違っても平均値をとればいいので、これは問題にならない
もし女性の保因者が判別できれば、病気にかかった男性のどれだけの割合が保因者の母親をもつかを調べることができる
もし突然変異個体が適応度がゼロ($ s=1)であり、両性で突然変異率が同一であれば、上の式からわかるように男性の患者の2/3は母親の保因者から生まれたもの
この予測から少しでもずれがあれば両性で突然変異率が異なることを示す
ヒトでは男性の方が突然変異率が高いことを示すと思われる資料があるが、確定的ではない
このような重症の病気では$ s=1であることは確実
したがって$ 2\mu_f+\mu_m=20/100000である
もし突然変異率が両性で同じであれば、突然変異率は約$ 0.00006
ヒトの劣性突然変異率は普通には優性突然変異率よりもおよそ10倍高い
相反する方向に働く選択作用の間の平衡
これまでに述べた選択の条件の下では、有利な突然変異遺伝子は集団中に固定する状態に近づき、その後は再起突然変異によって別の対立遺伝子に変わるため完全には固定しないが高い頻度で保たれるようになる なぜ、ホモ接合体ばかりにならないのだろうか
鎌状赤血球ヘモグロビンをつくる遺伝子はホモ接合になれば非常に有害なのに、多くの集団に高い頻度で含まれるのはなぜか これらに対する答えは複雑で、多くの場合よくわかっていない
一番わかっている例は鎌状赤血球ヘモグロビン
異常ヘモグロビンSはマラリア病原体が赤血球内で生存するのに不適当な環境を与える 同時に鎌状赤血球のヘモグロビンのホモ接合体は鎌状赤血球貧血によって不利 ヘテロ接合体は貧血にもならないし、マラリアにもかかりにくい
ヘテロ接合体が最も適応度が高いのでそれを標準として表21.4に示すように適応度$ 1を与える
table: 表21.4 選択がヘテロ接合体に有利に働く場合のモデル
遺伝子型 AA AS SS
頻度 p²A 2PAPS P²S
相対適応度 1-a 1 1-s
ある世代の遺伝子型頻度と適応度を用いて、次の世代の遺伝子頻度を表すというこれまで何回も用いた方法で計算を進める
$ p_A'=\frac{p_A^2(1-a)p_Ap_S}{p_A^2(1-a)+2p_Ap_S+p_S^2(1-s)}=\frac{p_A(1-ap_A)}{1-ap_A^2-sp_S^2}\qquad (21.10)
ここで$ p_A'=p_Aとし、少し計算をすると($ p_A+p_S=1に注意)次式が得られる
$ \hat p_A=\frac{s}{a+s};\hat p_S=\frac{a}{a+s}\qquad(21.11)
遺伝子型SSが事実上致死($ s=1, 実際にそう)とし、マラリアがはびこっているアフリカの地域で遺伝子頻度$ p_S=0.1であるとすると、ヘテロ接合体に比べ正常個体の相対適応度が推定できる
式21.11に$ p_S=0.1, p_A=0.9, s=1を代入すれば、$ a=1/9
したがって、ヘモグロビンAのホモ接合体では、適応度はヘテロ接合体に比べ1/9だけ減少する
もう少し正確に言うと、この値は遺伝子が平衡に達する期間におけるAホモ接合体の適応度減少の平均値
マラリアによる死亡率に関するデータがなくても、このような推定ができることは注目に値する
マラリアはこれまで重大で広い地域における疾病であったので他の遺伝子もマラリア抵抗性に関与していても驚くにあたらない
これら遺伝子は共にホモ接合およびヘミ接合の状態で貧血を起こさせる マラリア抵抗性をもち同時に貧血もないことは、ヘテロ接合体である以外には不可能にみえる
ホモ接合体が毎代生産させるので、これは病気対策としては効率の悪い仕方
この問題に対する一つの可能な解決法は、乗り換えの間違いにより遺伝子重複が起こり、遺伝子AとSが同一染色体上にくるようになればよいと考えられる そうなれば、ホモ接合のAS/AS遺伝子型はAAやSSホモ接合体を生産することなしに、ヘテロ接合体ASと同じようにマラリア抵抗性を持つことになるだろう
しかし、このことは全く起こらなかったと思われる
おそらくこんな単純な解析によって説明できるほど実状簡単ではない
ヘテロ接合体に不利に働く選択。母親-胎児不適合性
ヘテロ接合体が選択に有利であれば、対立遺伝子の両方が集団中に維持される ヘテロ接合体が両ホモ接合体のどちらよりも適応度が低いときはどうなるか
表21.4における$ sと$ aの両方とも負の値をとらせることにより前と同じ式を用いることができる
平衡を与える方程式21.11は前と同じになる
分子と分母の記号がお互いに打ち消し合うから
しかし、一つ大きな違いは、この場合は平衡が不安定になること
もし集団が平衡点になければ遺伝子頻度は平衡点に近づくのではなく、遠ざかっていく
このことは、平衡点のどちら側でも遺伝子頻度の変化の方向を調べてみれば確かめられる
たとえ
不安定平衡はあたかも意志が山の頂上でつりあっているようなもの
一旦少しでも押されると転がり落ちる
安定平衡は谷底に落ち着いている石のようなもの
動かしても元の位置に転がり戻ってしまう
現実の世界ではたえず他の力が存在し、それが単に遺伝的浮動の効果だけにすぎないとしても、遺伝子頻度を不安定平衡点から遠ざける したがって、ヘテロ接合が不利なような遺伝子座では多型は見られないはず
ヘテロ接合が不利なような選択のいちレは母親と胎児との不適合
このような状況のもとでは平衡点のどちら側から出発するかにより、集団はDとdのどちらかについてホモ接合になるはず
このことは世界の大部分の人類集団にあてはまる
大部分のアフリカ人の集団でもまれであるが、西ヨーロッパに由来する集団ではほぼ$ 0.4の頻度
理論的には一方が失われるはずなのに、Dとd遺伝子とが共存する事実をどのように説明したらよいか
最も妥当な説明は、ヨーロッパ人の集団は雑種起原と考えること
過去に東洋から西洋への移住があったことが知られている
もし、もとのヨーロッパの居住民はRh-であったならば遺伝子共存の起原を説明できるだろう
今述べてきたような種類の淘汰が完了するには、2, 3千年の期間では不十分
もとのヨーロッパ人の集団ではRh-の頻度が高かったという証拠がある
言語学的、地理的その他の理由から、人類学者はバスク人は初期のヨーロッパ人の残存の民族に最も近いと考えている したがって、この多型は西ヨーロッパ人とその子孫が雑種起原であることの歴然たる証拠
減数分裂分離ひずみと選択のつり合い
ヘテロ接合体から2個の配偶子が同数生産されない現象
これはAaヘテロ接合体からAとaの配偶子が同数分離して生産されるというメンデルの第1法則に反するもの 雌では減数分裂分離ひずみは、ある染色体が極体にいくかわりに卵核に含まれやすいことのために普通には起こる ショウジョウバエでは卵形成によってつくられた4つの核は1列に並び、精子は普通は、卵に入り込んだ場所にいちばん近い末端部分にある卵と受精する したがって、遠心的に動く染色体は受精される核に入りやすいことになる
もし、相同染色体の間で大きさに違いがあれば、小さい方が動きやすく、したがって受精される核に入り込みやすい この場合、大きい方は集団から除かれやすい
しかし、相同染色体はほとんど常に大きさが同じだからこの機構は自然界ではあまり重要でない
しかしこれは染色体が大きくなりすぎてかさばることを妨げる作用があるかもしれない
雄における減数分裂分離ひずみに対しては別の説明が必要
減数分裂によってつくられた4つの細胞はすべて機能があるから
最もよく分かっているのはショウジョウバエの因子
Sd遺伝子は目に見える表現効果はないが、この染色体をもつ雄は、その遺伝子を普通に期待されるような50%でなく、ほとんどすべての子に伝える
減数分裂の過程でSd遺伝子は、相同染色体の相手に乗っているR遺伝子(responder)に何らかの仕方で働きかけ、R遺伝子を受け取った精子が成熟できないようにする Sd遺伝子はそれをもつ個体の適応度を高めることによるのでなく、減数分裂の過程でいわばごまかしをすることによって集団内でその頻度を増加させる
Sd遺伝子は有利な効果は何も持たないのにもかかわらず集団内で増加する
しかし、Sdをもつ染色体はホモ接合の状態で致死または不妊を起こさせるので、高い頻度にはなれない
その上、Sdの作用に対して抵抗力をもつような正常染色体があれば、それは抵抗力のない染色体よりも選択に有利となる
Sd遺伝子は、ほとんどすべてのショウジョウバエの野生集団に存在するようだが、それをもつような集団の中には抵抗性の染色体が多く見られるようになる
ハツカネズミでも似たような現象があるが、詳細はよくわかっていない
この遺伝子は分離のひずみを起こさせる以外に表現効果(尾の各種の異常)もある
ホモ接合体はほとんど常に著しい異常を伴い、しばしば致死となる
このような有害効果があるにもかかわらず、分離のひずみの作用のおかげでこの遺伝子は自然集団の内に存続できる
このような遺伝子が集団中に存続できるのは、それを排除する仕組みがないから
たとえその効果が有害であっても、分離のひずみが自然選択を相殺してしまう
もし、このような遺伝子が集団中に高い頻度で存在すれば、それは大きな害作用を及ぼすだろう
それらの頻度は実際にはよくわかっていない
ほんの2, 3例だけが調べられており、それらは偶然的または著しい表現型を表すことにより検出されたもの
例えば55:45といった小さな分離のひずみを起こさせるようなヒトの遺伝子があったとしても、検出することはほとんど不可能であろう
その遺伝子やそれに強く連鎖した他の遺伝子は集団中に期待されるより頻度が高いだけであろう
正常な突然変異率から予想されるより頻度が高いだけであろう
正常な突然変異率から予想されるより高頻度で、ある種の有害遺伝子が存在することをこれおによって説明できるかもしれない